みなさまこんちは,よしだです。
10月に入って紅葉のシーズンに入ってきましたが,10月はアルプスなどの高い山では雪が降り始める時期です。つまり無雪期のアルプスの登山もこの頃までとなります。今年はアルプスのシメはジャンダルムにしよう,と当初から考えていてそれなりに準備もしてきたので,その計画を実行してきました。
と,ジャンダルムと言われても何のことやら?ですよね。
ジャンダルムは北アルプス西穂高岳と奥穂高岳の間にあるピーク(岩峰)の一つで,標高は3,163 mで日本ではかなり高い部類になりますが,奥穂高岳の付属峰とみなされ,独立した山ではないという扱いです。しかしジャンダルムのある西穂高岳と奥穂高岳の間の登山道は,一般縦走路では日本最難関とさえ言われるだけあって,ジャンダルムに到達するのはハードルが高く,それゆえ「いつかはジャンダルムに」と登山者あこがれのピークになっているのです。
ちなみにジャンダルムとはフランス語で憲兵を意味し,進路を阻むような形の岩峰からその名がついたそうです。
今回私は,10月6日に西穂高岳中腹の西穂山荘から,西穂高岳・ジャンダルム・奥穂高岳を経由して穂高岳山荘まで歩きました。その様子を写真でご覧いただこうと思います。
天気予報ではこの日は晴れだったのですが,朝4時に西穂山荘を出てしばらくすると霧に巻かれ,雨も降りだしてきました。写真のように視界不良で風も強く最悪のコンディションです。私自身も寝不足のせいか頭が痛かったり吐き気がしたりで体調がよくありません。断念することも選択肢に入れて,とりあえず西穂高岳の山頂を目指しました。
ところが!西穂高岳山頂手前付近から急に霧が晴れ,風も雨も霧もなくなってきました。気がつくと私の体調もいつの間にか回復し,予定通り奥穂高岳に向けて進むことにしました。
西穂高岳の山頂を過ぎると現れるのがこの表示。「一般登山道ではありません。経験者向けの難ルートです。」の文字に身の引き締まる思いがします。緊張感をもって足を踏み入れます。
早速こんな急降下が始まります。写真上まで一気に下るのです。このルートはこんな下りが何度も何度も現れるのですが,普通の登山道だったら当然のようにある鎖が,ほとんどつけてありません。手と足を使って下るしかないのです。しかし,手を置いた岩がグラッと動くことも多く,かなりの慎重さが要求されます。
上の写真の急降下を終えて振り向いて撮ったのがこれです。写真中央左の黄色の服の人がまさに降下中です。これを登るのはそこまで難しくないかもしれませんが,登りと下りでは難易度が全然違います。
一度小ピークを登って進む方向を撮ってみました。基本的に稜線伝いに進むはずですが,明確な登山道というものが見えてきません。このルートでは「えっ,ここ行くの?」と何度独り言を言ったことでしょう・・・。
次の小ピーク,間ノ岳への登りです。岩くずだらけの急斜面で,ちょっとしたことで簡単に落石が発生しそうです。このような場所では,自分が落石に当たらないように,そして自分が落石を起こさないようにも注意をしなくてはいけません
。
間ノ岳の山頂に到着しました。南アルプスには,標高が3190mと日本3位,日本百名山の一つである「有名な間ノ岳」がありますが,それに対してこちらは「通好みの間ノ岳」といったところでしょうか。山頂はちょっとした広がりがあってしばらく休憩です。後方に見えるとがったピークは西穂高岳。そこに到達する直前まで霧・雨・風だったことがウソのように青空が広がっています!
間ノ岳を後にして,かなり下りたところで間ノ岳を振り返って見ました。「えっ,あんなにとがっていたの?」と思うと同時に「結構すごいところを歩てきたなぁ」と思わざるを得ません。
先方を見ると,このルートの難所(と言うかずっと難所ですが・・・汗)の一つ,逆層スラブと呼ばれる場所が見えてきました。板状の岩(スラブ)が斜面下に向かって階段状になっている(逆層)岩場で,もし滑ったら止まることができません。写真の中心のやや上に白いヘルメットの人がいるのが分かるでしょうか。しばらくこの方の動きを観察して,自分がここを登るイメージを作っていきます。
逆層スラブの下までやってきました。写真中心やや左に赤い服の人が見えますが,この方が降りきるのを待って登ります。ここには長い鎖が1本ついていて,それを補助的に使って通過することになるので,安全上一人ずつ進むことになります。
逆層スラブを登ると「天狗の頭」というピークがあり,そこからまた急降下すると「天狗のコル」という場所に着きます。「コル」とは鞍部とも言い,ピークとピークの間にある一番標高の低い場所のことを言います。峠のイメージというとわかりやすいでしょうか。ここにはちょっとした広場があり,私も持ってきたパンを一つ食べて次に備えました。
天狗のコルからは,畳岩尾根の頭・コブ尾根の頭というピークへの登りになります。その標高差は300m以上!すれ違った人からは「ここは気合です!」と言われました(笑)。その途中を撮ったのがこれですが,崩れた岩山の写真,ではありません。これでも登山道なのです! これから中央の狭い谷を登っていきます。他の山では回避されるようなルート設定ですが,ここではこれでも最良なルートなのです!
つらい登り(本当につらかったです!)の途中で振り返って写真を撮りました。最も高いピークが西穂高岳で,あそこからかなり進んできました。がしかし,自分でもどこを歩いたのかさっぱりわからないような険しい岩山の連続です。よくもまぁこんなところを歩いてきたものだと,自分をほめてあげたくなります(笑)。
コブ尾根の頭の頂上までもうすぐというところまで来ました。今まで「目の前は岩」という景色ばかり見てきたので,この開けた斜面の風景は新鮮に感じます。がしかし,私はここで大きく道をそらしてしまいました。踏み跡をたどっていたはずが,いつの間にか踏み跡が不明瞭になり,正規の道がどこにあるのかわからなくなったのです。不安定な岩くずはいつ崩れるのか分からず,さすがにこの時は恐怖を感じました。すぐに安定した斜面に入ると,ちょうど人の声が聞こえたので正規ルートに戻ることができました。やはりここは油断ならないルートであり,再度気を引き締めて歩き始めました。
コブ尾根の頭の頂上に着くと,不意に前方にヘルメットのような形の岩峰が現れました。これがジャンダルムです! 山頂に何人かの方がいるのが見えます。
ジャンダルムの基部までやってきました。登山をやっている人はよく略して「ジャン」と言ったりしますが,岩に矢印で「ジャン」とあり,山頂への道を示しています。いよいよここまで来たか!と心が躍りますが,見ての通りわずかな幅の通路を進んでいきます。左下は何もない断崖絶壁です。補助する鎖もなく,安全は自分の足と手で守るしかありません。慎重に進みます。
いよいよジャンダルムの山頂に到達しました。この時お昼の12時過ぎで,西穂山荘を出たのが午前4時なので,すでに8時間が経過しています(慎重にゆっくり歩きました)。夏山だとこの時間には雲が湧き出して景色が見えなくなることも珍しくないですが,この日は天候に恵まれ,天を突く槍ヶ岳(写真中央)はもちろん,遠く白馬岳や立山といった山まで見通すことができました。
山好きの人はよく,「ジャンダルムに行く」を「天使に会いに行く」と言ったりします。山頂に天使がじょうろで水をまく様子をかたどったモニュメントがあるからです。私の相棒のゾン太君,ぶじかえるくんがぶら下がっているのが3代目の天使で,2人の下には4代目の天使がいました。4代目のことはまったく聞いていなかったので,割と最近ここに置かれたのでしょうか。
名残惜しいですが,ジャンダルムを後にします。あとは奥穂高岳に登って穂高岳山荘に行くだけ・・・とならないのがこのルート。むしろここから難所中の難所を超えることになります。また急降下の図ですが,手や足をどこに置いたらいいのかわからないような絶壁の降下が何回もあり,その都度ひーひー言ってました。
ジャンダルムを振り返ります。西穂高岳側からだとこんもりとした岩ですが,奥穂高岳側から見るとそそり立つような大きな岩峰であることがわかります。頂上に登山者が1人いるのが見えますが,ジャンダルムの大きさと比べるととても小さく見えます。
ジャンダルムの次は「ロバの耳」という岩峰に差し掛かります。絶壁を何度も下らされた分,こんどは絶壁を一気に登らされます。威圧感満載の岩壁で,時計で言うと6:30くらいの位置に青いヘルメットの人が登っているのが分かるでしょうか。「これを登るのか~」とため息が出ます。
そして最後の難所がこちら,馬の背です。ここはわずか数メートルですが,ナイフの刃先のようなところを進んでいきます。右も左もすっぱりと切れ落ちていて,手に汗握ること間違いなしです。
馬の背の一番スリリングな地点で写真を撮ってみました。高度感,伝わるかしら?
いま右足を置いている10 cm程の幅の岩棚を,前へ前へ(写真の上方向)に進んでいきます。これ以外足を置くところはありません。そして下は何もありません。ただ心落ち着けて一歩一歩を踏み出すしかありません(汗)。
馬の背を過ぎてしばらく歩くと安定した道になり,「一般登山道ではありません。経験者向けの難ルートです。」の区間が終わりになります。ホッとする瞬間です。そしてすぐに奥穂高岳山頂に着きます。振り返れば鉄かぶとをかぶったようなジャンダルムが,ひときわ存在感を放っています。長年の憧れだったあの頂に立ったことに感無量でしたし,今回難しい挑戦をやり切ることができたことに感謝の念が湧いてきました。
今回「里山ブログ」なのに里山とは関係ない話(しかも長かったですね・・・)で失礼しました。今回紹介したルートは,岩稜帯通過の充分な経験値があったうえで,体力・気力・冷静な判断・装備・天候すべての条件が満たされた場合でしかお勧めできません。あまり参考にならず恐縮ですが,やはりリアルな自然に触れるというのは,よい経験だと思いました。KSCの学生さんにも,身近な里山でも標高の高めの山でも,多くの自然に触れてほしいと思っています。